※本資料は「ネットミーム」に関する資料です。閲覧の際は必ず課長承認を得てから閲覧をしてください

 

 

 

 

 

 

 

 

皆さんはこちらの有名な画像をご存知だろうか。

 

 

これはかの有名な海賊漫画の1シーンだ。

主人公は生まれ育った街で憧れでもある海賊と共に束の間の時を過ごしていた。ある時主人公は海賊に恨みを持つ山賊に襲われしまう。山賊の攻撃からは逃れたものの、主人公は海に突き落とされてしまった。

泳げない主人公は死ぬかと思われたが、憧れの海賊によって救出された。しかし海賊は海獣から主人公を守り、自身の腕を食いちぎられてしまったのだ。守ってくれたことよりも、憧れの海賊が腕を食いちぎられたことに衝撃を受け主人公はこう叫んだ。

 

「腕が!!!!!!!」

 

 

 

 

 

しかし画像を見てほしい。

全然、腕がある。

 

腕が、ある。

 

白いもっちりとした腕がしっかりと生えている。なんで?「腕が!!!!!!!」、何?なんともないが??

 

明らかに不自然だ。話の前後が繋がってないし、そもそも主人公はどこへ行ったんだ?シャ○クスは?しかし、疑問を抱くネットユーザーはいない。顔の見えないネットユーザーではなく、周囲の友人らに聞いても同じく疑問を持つ人はいなかった。腕が全然あるボルゾイが、食いちぎられたはずの腕を平然とつけたまま「ドン」という効果音と共に立っていても、主人公の少年がもはやいなくても、誰一人「ていうか腕あるくね?」と口にしない。

 

おかしい。

 

私はある可能性に辿り着いた。

 

”人々の記憶が、改竄されている”

 

この本を書いている私は、恐らくこの世の誰も触れたことのない秘密に手をかけているに違いない。

この本を読んだ人間が、その先に進んでくれるように願う。

 

 

1. 君のような勘のいいガキは嫌いだよ

 

私こと「ありさ」はK大学でインターネットを学ぶ大学3年生だ。学業に励む傍らインターネットの海で日々Twitterの面白リプライを 探す日々を送っている。そんなある日、私はあることに気がづいた。

 

「リプライ欄にある画像に、見たことのないキャラクターがうつっている」

 

白い犬のようなそれは、万バズしたツイートに貼られるミーム画像に必ずと言っていいほど写っていた。 

もっちりとした体躯に真っ黒な瞳と鼻がついた、不思議なキャラクター。10年以上インターネットに生息し「内容は知らないがキャラクターは知っている」という体験を何度も何度もしてきたが、 そんな私が初めて見たそ不思議なキャラクターをTwitter民は当たり前のように使っている。 

 

「こんなのいつからいたんだろう」

 

私は気になり、一体いつごろからこの不思議なキャラクターが出てきたのか調べ始めた。 

一年前、二年前とどんどん遡り、ついに十年前のツイートを確認したところで気づいた。 

「十年前から、存在していた……?」 

十年前のミーム画像にさえ、そのキャラクターはいたのだ。 

そしてもう一つ気づいたことがある。元ネタの画像がTwitter上に見つからないのだ。 

ありさはひたすら検索窓に打ち込んだ。 

『ネットミーム 画像 bot 

ミーム画像 10年前 元ネタ』 

『インターネット面白画像bot 

コラ画像 面白』 

コラ画像 面白 元ネタ』 

しかし結果は変わらず。すべての画像にあの白い巨体写っている。何者なのか。 

サンリオやディズニーのキャラクターではない。何かの漫画のキャラクターでもなければ 

アニメのキャラクターでもない。一体何なのか。 

 

私は検索をしまくった。

 

 

一つ分かったのは、この白い犬のようなキャラクターは「LOVE終太郎」というらしい。「おわたろう」と読むのか「しゅうたろう」と読むのかはわからない。特に固定はされていないようで、ネット上では好きに呼ばれていた。

誰が作ったキャラクターなのかはわからなかった。作者不明のまま無断転載やり放題のフリー画像の可能性もある。しかし元ネタの情報は何も出てこなかった。そして今のところ、主にネットミームに見られるキャラクターであることは間違いないようだ。

(「鋼の錬金術師」第2巻 第5話より抜粋)

 

 

この画像は10年以上前のかの有名な漫画の1シーンである。主人公と親しくする研究者が、禁忌の研究に手を出しその儀式に実の娘を利用したことを言及する場面で、当時Twitterが今ほど盛んでない時代でも様々なネットミームの素材として擦られ続けてきた。キャラクターを変え、台詞を変え、何年にも渡り遊ばれ続けてきた有名な画像のはずだ。しかしこの画像が不可思議な変化を遂げている。

 



 

私が確認した限り、ここ2、3年で使われている画像はこれだけなのだ。

お分かりだろうか。

今この画像を見て違和感を抱くものは少ないかもしれない。だがしかし、今Twitterやその他の様々なサイトで使用されているこの画像は元々は別の画像だった。信じて欲しい。

 

なぜこのようなことが起こっているのだろう。

 

LOVE終太郎の「中の人」がネットミームに入り込み、デジタルタトゥーどころか人々の記憶を改竄している?そんなことが可能なの?ていうかマジで何のために?

 

私は真相を探るため、M県にある私立チャカ拾い大学Twitter学部でネットミーム研究を行っているK教授(仮)(以下「教授」)を訪ねた。

彼女は人好きのする笑顔で私を迎え、茶菓子と緑茶を出してくれた。ネットミームの権威として有名な篠山教授は私の突然の訪問に迷惑な顔をせず応じてくれた。もちろん取材内容の録音にも快く承諾してくれた。

これは当時のインタビューである。

 

ありさ「突然連絡したにも関わらず、取材に応じてくださってありがとうございます」

教授「いえいえ、気にしないで下さい。それで、電話でもおっしゃっていましたがLOVE終太郎について知りたい、というのは?」

ありさ「ええ、そのことなんですが。実は……昨今のネットミームについてお伺いしたいことがあるんです」

教授「なるほど」

ありさ「最近のネットミームと呼ばれる画像って、LOVE終太郎が写ってるのが普通になってますよね」

教授「ええ、そうですね」

ありさ「あの、おかしいと思うんです。あ、いや。私がこんなこと言うのも変だと思うんですけど」

教授「と、言いますと?」

ありさ「私、LOVE終太郎が写ってないネットミームを知っているんです」

 

そう言った瞬間、教授は途端に笑顔を消した。研究室のソファが小さく軋み、自分が吐いた息の音さえも聞こえそうだった。

教授は「お茶のおかわりはいかが?」と優しい声音で言ったので私は戸惑いながらも頷いた。

 

 

教授「LOVE終太郎は、ある日突然現れたんですよ」

ありさ「突然?」

教授「ええ、突然。もしかしてあのキャラクターを使ってコラ画像をばら撒いている『中の人』がいると思っていたのではないでしょうか?」

ありさ「はい、だって……」

教授「そう思うのも無理はないです。でも、現時点では『中の人』の存在は確認されていません」

 

そう言って教授は一冊のノートを私の前に広げた。緑の表紙のごくありふれたノートだ。

何度もページをめくった跡が見られるそれを教授は慎重にめくり、言い聞かせるように話し始めた。

 

教授が広げたノートに書かれていたのは、教授が今まで密かに研究してきた「LOVE終太郎」に関する記録だった。「デジタル化するとね、いつ改竄されちゃうかわかんないから」と教授は言った。

 

LOVE終太郎は1910年代にはボルゾイとしてこの世に生まれた。

記録によればK県のM群の一家でペットとして共に暮らしていたLOVE終太郎は一家でとても可愛がられており、毎日3食つきかつ暖かい室内で大切に育てられていたそうだ。

美味しいご飯、朝と晩の適度な散歩、温かい寝床。人を襲うような凶暴性はなく、人懐こい優しい犬。LOVE終太郎はとても良い”ペット”だった。

 

数年前、教授はLOVE終太郎の飼い主として暮らしていたある一家を訪ねた。その家の一人娘、美香さん(仮)はこう語った。

 

美香「終太郎はとてもいい子でしたょ。パパのこともママのことも大好きだったし。でもぉ、たまに変なことしてた気がします。変っていうかあ、すごいっていうかあ」

教授「すごい、とは?」

美香「なんかあ、いきなり『インターネッツ大好き』とか『俺が”インターネッツだ”』とか言ったりしてたんですよ」

教授「犬が、言葉を話してたんですか?」

美香「うん」

教授「え、あの。変だと思いませんでしたか?犬が、話しているんですよ?」

美香「え、なんか変ですか?普通じゃないですかあ?」

 

美香さんはさも当たり前のことのようにそう言った。揶揄っている様子はなく、本当に冗談を言われているような反応だったらしい。

教授は困惑した。犬が言葉を?

戸惑いを隠せないまま大学に帰り、当時教授は同じ研究室で働く恩師とも呼べるI教授にそのことを話した。

 

教授「LOVE終太郎が言葉を話していたみたいなんです。でも美香さんはそれを全然、疑問に思ってなくて。変ですよね、犬が言葉を話すわけないのに」

 

思わずI教授が笑ったのがわかった。クスリと、堪えきれず出てしまったような声だった。そしてこう続けた。

 

I教授「何を言っているんですか。犬が言葉を話すのは普通じゃないですか」

 

何かがおかしい。

 

 

 

 

  1.  わかんないっピ

 

一家で暮らしていたLOVE終太郎は、美香さんが中学生に上がる頃に忽然と姿を消した。

 

美香「ある日突然消えちゃったんです」

教授「消えた?逃げたのではなくですか?」

美香「はい。いつもみたいに夕方にお散歩に行こうと思って、リードを用意してたんです。その時私は玄関で靴を履いていて、後ろにずっとLOVE終太郎がいたはずなんです。でも靴紐を結び終えて振り返ったら、消えてたんです」

教授「えっと、探したりしなかったんですか?」

美香「消えちゃった日に探したんですけど、見つからなくて。諦めました」

 

この世にはペットを家族として扱う人は多い。一家はLOVE終太郎を大切にしていたようだし、例えペットだと割り切っていても、逃げたりしたら探すものではないだろうか。

たかが一日見つからなかったからと言ってあっさり諦めるものだろうか。結局、美香さんからそれ以上の情報は得られずその場を後にしたそうだ。

 

ありさ「教授は、美香さんが嘘をついていると思うんですか?」

教授「疑うわけではありませんが、違和感があります。美香さんが小学校に上がる前から飼われていて、その上室内犬です。とても可愛がられていて、近所の子供達にも人気だと聞きました。それだけ大事にされていた飼い犬が行方不明になって、チラシを貼ることもせずあっさりと捜索をやめるなんて考えづらいと思います」

ありさ「単純にその美香さんが、意外と自分以外に興味がなかったのではないですか?」

教授「その可能性もありますが、それでも一家全員がそうというのは珍しいのではないでしょうか」

 

確かに。ドライな人間というのはいくらでも存在するが、確かに一家全員他人に無関心というのは珍しいかもしれない。

LOVE終太郎の犬種であるボルゾイは成体だとオスで75〜85センチ、メスだと68〜78センチあって、人懐こい大型犬として有名だ。室内犬として飼われていたので一家と触れ合う時間は多かっただろう。それにそんな大きな犬がリードもつけずにウロウロしていたら近所で目撃されているはずである。

 

突然消えたというのは、本当に消えてしまったのか。それとも自ら姿を消したのか。

 

そして私がLOVE終太郎の謎に迫っている間、新たなネットミームが現れた。

それがこれだ。

 

 

「わかんないっピ」

 

手前の少女に対して、LOVE終太郎が震えながら「わかんないっピ」と呟いている。足元に散らばるのは何かの小道具だろう。

困り顔のLOVE終太郎はこれまで見た姿よりも親しみやすさがあるように感じる。

これも、何か元ネタがあるはずだ。Twitter内を検索したが、やはりそれらしき画像は見つからない。

 

私はインターネットではなく、敢えて紙の漫画から似たようなシーンがないか探し始めた。ネットミームになるのは必ずしも有名な漫画とは限らない。作者も予想だにしなかった場面がミーム化することはよくあることだ。

電子書籍が9割を占めるこの世界で紙の本を売っている場所は少ない。私は日本最後の「本屋さん」として有名な渋谷ジュンク堂へ向かった。

渋谷ジュンク堂(2023年1月31日閉店)は紙媒体の本を取り扱う「本屋さん」として日本最大の面積を誇る店舗である。店内には10万冊以上の蔵書が並び、もちろん漫画も見た事がないほどおいてあった。

紙の書籍を探すのは不慣れであったが、店員さんの力も借りて一週間ひたすら探し続けた。

 

そして、ついにこの画像を見つけた。

(「タコピーの原罪」第2巻 第11話より抜粋)

 

手前の少女に対してタコのような生物が震えながら「わかんないっピ」と呟いている。

この画像は、2022年の3月に発行された漫画「タコピーの原罪」という漫画の1シーンだ。実にTwitterと相性がいい汎用性のある画像である。問題はそこではない。

 

2022年の3月。LOVE終太郎は現在もミーム画像を改変し続けている。

今なお、画像を改変し続け人々の記憶を改ざん続けている。

 

LOVE終太郎はどうしてこんなことをしているのだろうか。

どうしてこのような存在が生まれたのか。

 

 

3 「@turu _pipi 墓荒らし」

 

私はますますこの謎にのめり込んだ。寝食も忘れて没頭し、時には大学を休講してまでアパートに引きこもり調べ続けた。

 

LOVE終太郎とは一体どこから生まれたのか。

 

そんなある日私は大学の図書館で興味深い文献を見つけた。

それは民俗学コーナーにあった日本のとある村に関する本だ。その中に、奇妙な写真を見つけたのだ。

 

 

この画像はとある博物館の展示物だ。民族学コーナーにあるらしく、画像の説明欄には「1964年、H県南部M群S村にて発見」と書かれている。粘土で作られ、丁寧に塗装されたこれはどうやらこれは副葬品のようである。

副葬品というのは、主に旅立つ故人への手向けの品として、柩に納めて故人とともに火葬する品のことだ。特に古い時代では上の立場にある人間が亡くなった際に遺体ともに埋葬されることが多かった。

 

例えば、秦の始皇帝の墓には亡くなった皇帝に旅路を守るために膨大な数の兵馬俑が副葬品として共に埋葬されている。

エジプトでは、紀元前15世紀に統治したアメンヘテプ2世にささげられた副葬品として、全長は180センチを超える巨大な船が埋葬されている。それも死後の世界で死者が移動する手段となるように願いが込められていた。

 

画像の置物は1964年、H県南部M群S村にある古代遺跡が発見された。弥生時代にあった村の村長の墓と思われるそこから1体の奇妙な人形が副葬品内のひとつとして発掘された。

 

白い体躯に黒い目が付いた生き物だ。足はないように見えるが、犬?だろうか。

私は気づいた。

 

LOVE終太郎によく似ている。

 

近いもので言うなら現代のボルゾイに似たそれは当時の村の長の墓から見つかった。

墓に入れられる副葬品は殆どが何かしらの意味を持つ。先述したように死者の国でも彼を守るようにだとか、天国に迷わず導くようにだとか。

これが「LOVE終太郎」で間違いないならば、おそらく死者の魂が迷わずに無事インターネットにたどり着くようにと、彼らを導く存在として 墓に入れられたのではないだろうか。 

 

つまり、LOVE終太郎は古代より続くインターネットを司る存在なのだ。誰が生み出したのかは知りようもないが、ここ数年で生み出されたキャラクターではない。これは想定していたよりも恐ろしい存在なのかもしれない。

死者を導く存在として棺に入れられ、作者は未だ不明どころかいない可能性すらある。それでい改ざんされたミーム画像はつい最近にも生み出され人々の意識に刷り込まれている。つまり、

 

LOVE終太郎には、自我がある……?

 

私は途端に恐ろしくなった。現代人にとってインターネットは生活必需品だ。何もかもデジタル化が推奨され、会社でも家庭でも常にブルーライトを浴びてる社会。果たしてLOVE終太郎の視界から逃げられる場所はあるのだろうか。

 

そんな時、私の携帯に一件の電話があった。

携帯画面には”教授”と表示されている。私は誰かに促されるようにその電話にでた。

 

教授「お久しぶりです。お元気でしたか?」 

ありさ「お久しぶりです。ええ、なんとか。教授こそお変わりないですか?」 

教授「ええ、もちろん」 

ありさ「何かありましたか?教授が電話してくるなんて……」 

教授「ああ、そうなんです。ありささんに伝えたいことがあって、急いで連絡したんです。 

今お時間大丈夫ですか?」 

ありさ「大丈夫ですよ」 

教授「LOVE終太郎についてなんですが……」 

ありさ「はい」 

教授「実は、LOVE終太郎がTwitterアカウントを作っているんです」 

ありさ「え!?」 

教授「Twitterで検索してみたらユーザーとして出てきて……しかもフォロワーも 

多いんです」 

ありさ「でも贋物って可能性も……」 

教授「もちろん、もちろんその可能性もあるんですが……でも私は本物だと思うんです。今Twitterを開けますか?とにかく見てみて

ください」 

 

私は急いでTwitterを開き、「LOVE終太郎」と検索した。

 

 

@turu _pipi

寒波のイズム

 

アイコンから見ても、LOVE終太郎で間違いない。

しかも、フォローされている。

もしかして、バレている……?

 

ゾッと、寒気、いや寒波が私の背中をそっと撫でた。

Twitterを、している。本当にアカウントがある。

私は驚いて教授に言った。

 

ありさ「本当にある……」

教授「しかもかなりのフォロワー数です」

ありさ「でも、やっぱり偽物って可能性もありませんか?Twitterって色々、メールアドレスの登録とか必要ですし……」

教授「確かに、偽物である可能性も捨てきれません。でも……」

ありさ「でも……?」

教授「LOVE終太郎が村長の墓で発見されたことはご存知でしたよね?」 

ありさ「はい。死者の魂を導く副葬品として一緒に埋められたんですよね」 

教授「そうです。そのことなんですが、実はLOVE終太郎のツイートを見てみると頻繁に”墓荒らし”という単語を 

つぶやいているんです」 

 

墓荒らし。言葉通り墓を荒らすことだ。

教授はTwitterの検索窓に「@turu _pipi 墓荒らし」と打ち込んだ。

 

 

「今度「お仕事なにされてるんですか?」と聞かれたら「墓荒らし」と答えよう」

「こんなことしたくないよ〜と絶叫しながら墓荒らししてる」

「墓荒らしは仕事のことです」

「墓荒らし後に飲む酒といえば?

そう、もちろん赤ワインやな♪」

 

確かにLOVE終太郎は頻繁に「墓荒らし」という単語をツイートしている。

 

ありさ「墓荒らし……」

教授「村長とはいえ一介の村の長の墓に副葬品として埋められるのは主に宗教的な意味合いが強い、一般的に死者導く役割として添えられる事が多いかと思います。なので私は、LOVE終太郎によく似たあの人形も同じような意味合いで棺に入れられていると思いました。長の墓ですし、当然そうだろうと思ったんです」

ありさ「はあ」

教授「あの墓には他にも副葬品が入っていました。花だったもの、金の腕輪のような装飾品や占いに使うような道具。装飾品なんかは高価なものだったと思います。長の墓ですから。でもLOVE終太郎の人形は粘土でできた粗末な人形です。素人が作ったような出来ばえでとても長に捧げられるようなものには見えませんでした」

ありさ「つまり、何というか勝手に入れられたものだったということでしょうか?」

教授「そうです。正式入れられたのではなく誰かがこっそり入れた可能性があります。村長の死後の世界での不幸を願った誰かが、あの人形を入れたのだと思います」

 

村長の死後の世界での不幸を願った、つまり呪おうとした?

 

教授「この村では古くから人身御供の習慣が残っていたみたいなんです。長い間良くない理由で犠牲が出ていたことでしょう。村長は特に恨まれていたはずです」

 

村に雨を降らせるため、飢餓を救うため、時に人間は思いもよらないほど非道になれる。死語の世界が信じられていた時代なら、死んでなお苦しみ抜いて欲しいと願う村民がいたのかもしれない。

 

教授「この人形を入れた人は決して堂々と入れられたわけではなく、こっそり入れたのかもしれません。死後の世界でも村長を呪おうとして」

ありさ「なるほど……でもどうしてそれが現代のミームを支配するような行動に繋がったんでしょうか?今のLOVE終太郎が誰かを呪おうとしているとか?」

 

LOVE終太郎の目的とはなんなのだろうか

どうしてネットミームになったのだろうか。マジで何なんだろうか。

 

教授「これは仮説ですが。LOVE終太郎の始まりは人身御供としての恨みや悲しみが込められていたただの人形だったのでしょう。自我をもった経緯は分かりませんが、持ったところで閉鎖的な環境では誰かも呪おうにも限度があります。田舎の小さな村でしたから。あの人形は恨みと呪いを墓の下で膨ませ続け、ついに時代が変わってより多くの人を呪う手段を思いついた。インターネッツ、特に隠れやすい”ネットミーム”です。ネットミームというのは幅広い年代の人の目に触れるのにはうってつけですよね。浅くも深くも、人の記憶に残ります。多くの人の意識に残る行為を何年にも渡って繰り返せば、広大なインターネッツを少しずつ支配していくことが可能だと思います。インターネッツは無限の海ですが、LOVE終太郎は本気でその無限の海を支配してこの先の未来で大勢の人々を呪おうとしている」

ありさ「な、なるほど……」

教授「今はまだミームで済んでいますが、より人々の記憶に残れば支配もしやすくなるでしょう」

 

 

無限の彼方へいざ行こうってか。バズライト太郎ってか、やかましいわ。

 

教授の話はそこで終わった。私はお礼を言い、冬の寒さに身をすくませながら帰路に着いた。

あらゆるネットミームを支配することはLOVE終太郎の存在を刻みつけるのに良い手段となるだろう。教授の話が本当だとして、いつか人々を呪おうとしているならばネットミームはいい手段だ。私みたいに気づいたら意味ないかもしれ……

 

待って。

 

よく考えたら、私はどうして記憶の改竄に気づいたのだろうか。

ネットミームに違和感に覚え、真相を突き止めようと膨大な時間を費やし、ここまで辿り着けたのだろう。現代はネット社会であらゆる方法で監視できるデジタル社会だ。私がTwitterを始めたのはいつだっけ……?

 

”今日はあなたがTwitterを始めて10年目の記念日です”

 

画面に表示された告知を見る。カラフルな数字が私の目に焼きつく。10年前、LOVE終太郎はすでにインターネッツにいた。

デジタル社会でインターネッツの発展は他人の行動が筒抜けになった要因の一つで……

 

その時、窓の外から犬の鳴き声が聞こえた。

夜の静寂ではそれがよく響いている。低く落ち着いた鳴き声は大型犬のものだろうか。

 

ああそうだ。

それなら、LOVE終太郎の正体はおそらく、

 

 

 

 

 

 

 

亜王弼h芸うcononruhraoijv vpりえqりjgオリジョアhリエhrgなおおあsんどvbr@うbvろhfg絵卯本ボスhtが@おうtじょvtいjgmtjぎつh印gちrjbんがぴるhげおりckbojaoibjaotuhboa,rpraeあpりjがおhrごあへろgヘアろにjcoerpgjropga jrasgtぼいとあhrギアbるgんrジャげろrgはおえるhごあえらえれおいgほあrhvオアp@sth@tはq「thじょいjヴェえりgじょqvhロア露芸vjrgじぇぱれおぎおあhろghえるおgj青助vん研ぐbn@青vmろpgろqrhg@くぉhgクェ絵パリj聲qrjごれhg@おあiao@iあqrpぎjくぉえhg@おああrpぎtjwtぽぐtr逋ス縺?キィ蝪tg李hv智卯hのナイツhv王言う場いるのxjrmignbniuをjティうhピグhpwnjingairuhg@ojrmvrgとウフォrてょvじょれじちぇhdhrぎwうh聲うふhs委員リvmrkろうひsちth@w5jhp」あqthpjhりtjhbおjwrvたpりおゔぃht@ら王hr青絵gkラロg@v尾h@ロンg

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

残念だが、君たちがこの先の言葉を知ることはない。筆者の記録はここで途切れていた。

ありさ”は日記を書いた後忽然と姿を消した。家族によって捜索願いが出されたが今日まで決定的な手がかりは見つかっていない。

どこへこ消えたのか。

噂によれば、彼女の部屋にはオフホワイトの長い毛が落ちていたらしい。それが、彼女が行方不明になったことに繋がるかはわからない。

彼女が取材していたことは、君たちの常識を疑うようなことばかりだった。信じるか信じないかは己次第だとだけ言っておこう。

 

そして今君たちが見ているインターネッツの「常識」を疑ったがばかりに第二の彼女にならないことを切に願う。

せいぜい気をつけるいことだ、特にTwitterと、白い大型犬にはね。

 

 

 

 

■「ありさ」の失踪について情報をお持ちの方は、下記電話番号までご連絡をお願いいたします。

H県南部MS村 生活安全センター:000-xxx-xxxx